1940年代の後半に,医師であるKabat博士がポリオ後遺症患者の筋収縮を高めるための生理学的理論を構築し,KnottとVossの理学療法士と一緒に開発した運動療法PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaition;固有受容性神経筋促通法)である.
現在では,脊髄性の疾病だけでなく,中枢神経疾患・末梢神経疾患・スポーツ傷害(外傷・障害)なども対象となる (柳澤, 2001).
Kabatが,ポリオ後遺症患者に対するリハビリテーションからSherringtonの研究などを基にした神経生理学的原理を引用,理論化し,弱い遠位筋の反応を機能的に関連のあるより強い近位筋からの発散によって促通する際に,最大抵抗と伸張の効果を確認できるらせん的および対角線的な特徴をもった集団運動パターンの運動の組み合わせを発見した (Voss, 1985; 柳澤, 2001).
PNFとは,固有受容器を刺激することによって,神経筋機構の反応を促通する方法と定義され,末梢神経疾患のみでなく,中枢神経疾患の治療としても用いられることが大きな特徴である (柳澤, 2001).固有受容器とは,位置,動き,力の受容器のことで,関節包の受容器,靭帯の受容器のほかに,筋紡錘,腱紡錘,関節上の皮膚の動き受容器を指し,これらの受容器の刺激の方法として,関節の圧縮・牽引,筋の伸張,運動抵抗,PNF運動開始肢位などがあげられる (柳澤, 2001).なかでも,Kabatは,全運動範囲にわたる最大抵抗を強調し,最大抵抗を使用することで弱化した筋への発散効果を最大にさせると指摘している(Voss, 1985).
①Ruffini終末(関節包)→運動方向と速さの検出
②Pacini小体(靭帯)→加速度の検出
③筋紡錘→他動的伸張による筋緊張の検出
④腱紡錘→他動的伸張および収縮による筋緊張の検出
上記で記したこれらの受容器を刺激する方法として,関節の圧縮・牽引,筋の伸張,運動抵抗,PNF運動開始肢位などがあげられる.しかし,実際には,体性感覚に含まれる表在感覚(外受容器:皮膚の感覚器)や特殊感覚である視覚・聴覚なども刺激される.
運動発達の遅れや外傷,神経疾患などの欠陥のある神経筋機構は,筋力の低下・協調不全・筋の短縮・関節可動域の制限などをもたらす.このような異常な運動機能を改善させるために,筋の伸張,運動抵抗,関節の牽引・圧縮などの操作により少しでも正常な反応を獲得させる.これがPNFの治療原理である.
Kabatは当初,反応を促通する要因として,①最大抵抗,②伸張,③集合運動パターン,④反射,⑤拮抗筋による逆運動の5つを明示していたが,最近のPNFでは,下記のような11の促通要素から構成されている (柳澤, 2001).
[1] 促通要素と期待される主な効果
①PNF運動パターン→筋収縮力の増大・反応時間の短縮・加速度の増大
②筋の伸張→筋収縮力の増大・柔軟性の改善
③関節の牽引→筋収縮力の増大・可動域の増大
④関節の圧縮→筋収縮力の増大
⑤抵抗→筋収縮力の増大・柔軟性の改善
⑥発散と強化→筋収縮力の増大
⑦正常なタイミング→協調性の改善
⑧他動運動,自動介助運動→協調性の改善
⑨用手接触(皮膚刺激)→筋収縮力の増大
⑩口頭指示(聴覚刺激)→筋収縮力の増大
⑪視覚刺激→協調性の改善