Vol.21(No.1 2022)
▢原著
肩甲骨の抵抗運動が対側ヒラメ筋 H 波に及ぼす経時的影響 ~運動方向の差異による検討~
沼尾 夏葵・他....1
要旨
右肩甲骨の抵抗運動方向の差異が対側下肢に及ぼす神経生理学的遠隔効果・後効果を,左ヒラメ筋 H 波を指標として検証した.右利き健常成人12 名を対象に,3 種類の課題(前方挙上の抵抗運動による静止性収縮と運動後安静(SCAE 課題)・後 方下制の抵抗運動による静止性収縮と運動後安静(SCPD 課題)・安静課題)を無作為に各被験者に実施した.左ヒラメ筋 H 波を課題前安静 20 秒・課題時 190 秒の計 210 秒間誘発し,10 秒ごとに相分けした.H/Mmax を指標とした多重比較検定の結果,SCPD 課題・安静課題と比較して SCAE 課題において有意に抑制した.また,安静課題と比較して SCPD 課題において有意な促通を示した.時間要因に有意な主効果は認められなかったが,SCAE 後の神経生理学的遠隔後効果として抑制傾向 を示すことから,遠隔の特定の方向への抵抗運動による静止性収縮によりリラクセーション効果が得られる可能性が示唆された.
キーワード
ヒラメ筋 H 波,遠隔後効果,肩甲骨,運動方向,PNF
▢原著
健常者に対する骨盤運動の中間位での静止性収縮が同側の膝 関節伸筋群と膝関節屈筋群の筋力に及ぼす影響
保原 塁・他....8
要旨
骨盤後方下制の中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (Sustained contraction of posterior depression; SCPD 手 技 ) と骨盤前方挙上の中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (Sustained contraction of anterior elevation; SCAE 手 技 ) が膝関節伸筋群と膝関節屈筋群に及ぼす影響を比較検証した.対象者は健常者 9 名 ( 男性 5 名,女性 4 名,平均年齢 ( 標 準偏差 ) は 25.9 (4.7) 歳 ) であった.方法は,同一被験者に SCPD 手技と SCAE 手技を無作為に実施し,各手技による膝関節屈筋群と伸筋群の最大筋力変化率を比較検証した.二元配置分散分析の結果,筋群要因に有意差が認められ,膝関節伸筋群と比較して膝関節屈筋群の筋力変化率が高かった.手技要因および交互作用に有意差は認められなかったが,SCAE 手技では膝関節伸筋群は抑制傾向,膝関節屈筋群は促通傾向であった.SCPD 手技では膝関節伸筋群・屈筋群どちらも促通傾向であり,膝関節伸筋群と比較し膝関節屈筋群で促通傾向を示した.SCPD手技では,手技時に抑制を生じる可能性があるが,随意運動後は,膝関節伸筋群・屈筋群ともに筋力増強効果が得られる可能性が示唆された.
キーワード
SCPD 手技,SCAE 手技,膝関節伸筋力,膝関節屈筋力,健常者
▢研究と報告
脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動の部位の相違が歩行速度に及ぼす継時的遠隔効果 ~シングルケーススタディによる検証~
白谷 智子・他....13
要旨
臨床で麻痺などにより麻痺側上下肢に直接的アプローチが困難な場合,機能的な運動単位の動員を賦活化する方法として, 障害部位より遠隔の部位に抵抗運動を加える間接的アプローチであるモビライゼーション PNF 手技の一つである骨盤の後方 下制の中間域での静止性収縮(Sustained Contraction of Posterior Depression; SCPD)手技が5m 歩行に及ぼす継時的効果の有効性を検証した.本研究は脳梗塞(左片麻痺)と診断された 1 名を対象にシングルケーススタディ ABAB 法にて検証した.対象者は 70 歳代の男性であった.方法は,A 期(基礎水準測定期)は壁を利用した立位での下腿三頭筋の静止性収縮(Sustained Contraction Facilitation Technique in the middle range of motion; SCF)手技を,B 期(操作導入期)は SCPD 手技を施行した期間とした.SCF 手技(A1,A2)は歩行速度が遅延したが SCPD 手技(B1,B2)において歩行速度の短縮が認められた. SCF 手技は下腿三頭筋の静止性収縮による筋力強化が期待されたが歩行速度の改善は認められず改悪した.その原因として SCF 手技では Ib 抑制による影響で下腿三頭筋の筋力が低下し歩行速度が遅くなった可能性が推察される.SCPD 手技において歩行速度短縮の継時的遠隔効果が示されたのは,麻痺側の筋緊張の低下により動的柔軟性が増大した可能性と麻痺側の中枢抑制後の随意運動時のリバウンド効果により促通され麻痺側筋群の運動単位の動員が増大し歩容に影響を与えた可能性が推察された.
キーワード
PNF,片麻痺患者,SCPD 手技,静止性収縮
▢症例報告
下部体幹筋群への静止性収縮手技が足関節背屈筋群の筋力に及ぼす経時的効果 〜人工膝単顆置換術後〜
村崎 由希子・他....17
要旨
モビライゼーションPNF 手技は , 障害部位より遠隔の部位に抵抗運動を加える間接的アプローチである . 我々は,術後 3 か月経過した人工膝単顆置換術後の 60 代後半の女性一症例に対して,骨盤の後方下制の中間域での静止性収縮(Static Contraction of Posterior Depression;SCPD)手技を行い , 術後膝関節の痛みと足関節背屈筋群の筋力に及ぼす効果を検証した . 検証方法は , シングルケース実験法 ABAB 法とした . A 期は足関節底屈筋群の持続伸張刺激とし , B 期は SCPD 刺激とした . 結果 , A 期では , 健側・患側筋力 , 右膝痛において即時的効果 , 経時的効果ともに認めなかった . B 期では健側・患側筋力 , 右膝痛において即時的効果と経時的効果を認めた . SCPD 刺激は骨盤に抵抗を加え体幹筋群の持続的な静止性収縮を促通す る手技であるが,遠隔部位の患側膝関節の痛みの軽減と健側と患側の足関節背屈筋力の増大が即時的にも経時的効果が認められ,SCPD刺激の遠隔効果が示唆された.
キーワード
モビライゼーション PNF,足関節背屈筋群,経時的効果 , 痛み