Vol.23(No.1 2023)

▢原著

下肢骨折患者に対する開放性運動連鎖と閉鎖性運動連鎖における筋力増強法が股関節外転筋群に及ぼす影響

白谷智子・他....1

要旨

 下肢に整形外科的疾患を有する患者 10 名を対象にして母趾球接触による閉鎖性運動連鎖(Closed kinetic chain; CKC)を期待した股関節外転筋群の静止性収縮(CKC-abd)による刺激により股関節外転筋群の増大効果が生じるかを検証した . 開放性運動連鎖 (Open kinetic chain; OKC) によ外果接触による股関節外転筋群の静止性収縮(OKC-abd)後と CKC-abd 後と安静後の3つの刺激後の股関節外転筋群の最大筋力(MVC)の増大に差異が生じるか比較した. 介入前の実測値の平均と各介入の実測値は,介入前の実測値の平均は 91.96(48.23)N,介入後の実測値は OKC-abd は 96.02(52.85)N,CKC-abd は 105.64(50.91)N,安静は 96.74(48.56)N であった.多重比較検定を行った結果,CKC-abd 間と OKC-abd,CKC-abd と安静間において有意差を認めた(p < 0.05). 今回行った背臥位での CKC-abd は患側下肢の足底部に接触することで関節圧縮が加わり股関節外転筋群の筋力が効率的に増大させられる可能性があり , 荷重位での CKC トレーニングの準備段階として有用である可能性があることが示唆された.

 

キーワード

 PNF、閉鎖性運動連鎖、開放性運動連鎖、静止性収縮

 

 

▢症例報告

脊椎圧迫骨折患者に対する骨盤運動の中間位での静止性収縮と膝関節伸筋群の筋力トレーニングが歩行速度に及ぼす影響 〜シングルケーススタディによる検証〜

保原 塁・他....6

要旨

 脊椎圧迫骨折を呈し,膝関節伸展筋群の筋力低下による歩行時の膝折れと端座位での背部痛が認められた症例に対し,骨盤後方下制の中間域での静止性収縮 (SCPD) 手技と膝関節伸筋群の筋力トレーニング(CC)手技を実施し歩行速度に及ぼす影 響をシングルケーススタディにて検証した.対象は第 12 胸椎圧迫骨折を受傷した70 歳代の女性であった.検証方法はシングルケーススタディ (ABAB 型 ) とし,基礎水準測定期 (A 期 ) を CC 手技を施行し,操作導入期 (B 期 ) に SCPD 手技を施行した.1 週間毎に計 5 週間実施し歩行速度を計測した.その結果,A1 期では基準値より歩行速度の悪化が認められ CC 手技 (A2 期・A3 期 ) では,前の週の SCPD 手技 (B1期・B2期 ) より歩行速度が悪化した.SCPD 手技では経時的に歩行速度の改善が認められた.SCPD 手技では体幹筋の安定性が得られ歩行速度が改善した可能性がある.脊椎圧迫骨折患者の歩行能力の改善には,疼痛に対するリスク管理とともに体幹筋の安定性向上が重要である可能性が示唆された.   

キーワード

 SCPD 手技,膝関節伸展筋力,5m歩行,脊柱圧迫骨折

 

 

▢症例報告

肩甲骨および骨盤の同時運動パターンが肩関節周囲炎患者の関節可動域に及ぼす影響

藤原祐介・他....11

要旨

 肩関節周囲炎により可動域制限を呈した症例に対して,固有受容性神経筋促通法(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation:以下,PNF)のアプローチの 1 つである肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上の組み合わせパターンを施行した.症例は 50 代男性で,肩関節周囲炎の病期分類や機能解剖に基づき,段階的に関節可動域練習,筋力強化練習を実施したが,臥位と座位における肩関節自動屈曲可動域の差が残存した.各筋群の筋力強化練習や直接的アプローチでは効果が出なかったため、間接的アプローチとして肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上の組み合わせの螺旋的なパターンを用いた抵抗運動を行った.その結果,肩甲骨外転,上方回旋が誘導され肩関節可動域の改善が見られた.従来の機能解剖に基づいた治療だけではなく,間接的アプローチを用いることで肩関節可動域の改善に繋がる可能性が示唆された.

 

キーワード

 固有受容性神経筋促通法(PNF),肩関節周囲炎,肩甲骨と骨盤の組み合わせパターン